応用数理科Advanced Science 生命科学
6月25日(火)Advanced Science 生命科学分野を実施しました。今回のテーマは、「金属イオンがゾウリムシの繊毛運動に与える影響」です。慶応義塾大学の実験を参考にさせていただきました。
すべての真核生物の繊毛は、中心に2本の微小管とその周囲に9本の二連微小管から形成されています。この二連微小管に結合するダイニンがATPを分解し、隣り合う二連微小管上を滑ることで繊毛が動きます。繊毛の動きは、ダイニンのATP解酵素活性と深く関係しており、この酵素は、Mg2+(マグネシウムイオン)やCa2+(カルシウムイオン)で活性化され、Ni2+(ニッケルイオン)で阻害されます。Ni2+により停止した繊毛運動が、他の金属イオンを用いることで回復するかどうか遊泳行動を観察して調べることで、各種金属イオンの繊毛運動に与える効果を考察することを目的としました。
実験では、まず100 mMのNiSO4水溶液を作成し、それを希釈することで0.5 mM、0.3 mM、0.1 mM、0.02 mMのNiSO4水溶液を作成しました。次にマイクロピペッターでゾウリムシ懸濁液を75μLを時計皿に取り、実体顕微鏡で観察し動きを確認しました。その後、0.02mMのNiSO4水溶液を75μLを加え、3分間は連続で観察をおこない、その後は、3分おきに12分まで観察しました。遊泳速度や泳ぎ方の変化に注意して観察すると共にゾウリムシの半数が遊泳を停止した時間を記録できるようにしました。また、0.1 mM、0.3 mM、0.5 mMの濃度のNiSO4水溶液で同じ操作を行い、観察を行いました。
結果は、0.02 mMでは、動きがゆっくりになり、0.1 mMではくるくる回る本来の動きがなくなり、同じところを行ったり来たりする動きになり、0.3 mMや0.5 mMでは、3分でほとんどの個体が動かなくなりました。
Ni2+(ニッケルイオン)の濃度により、動きの変化や時間により動かなくなっていくゾウリムシを観察し、顕微鏡を見ながら「動かなくなった」「動きが変わった」と声を発するほど、生徒たちは興味を惹かれていました。
次に、ゾウリムシ懸濁液75μLを時計皿に取り、0.2mM NiSO4を75μLを加え、すべてのゾウリムシの動きを止め、100mMのCaCl2、MgCl2、BaCl2、並びに蒸留水を75μL加え、3分までは連続観察し、その後は、6分後、10分後の様子を観察・記録し、動いていたゾウリムシの割合を記入しました。
結果は、Ca2+(カルシウムイオン)では、6分後には動きが活発になり、10分後には本来の動きに戻る場合が多く、 Mg2+(マグネシウムイオン)では動きは回復するんものの、10分後に本来の動きになる個体は半分程度でした。Ba2+(バリウムイオン)では、やや回復するものの動きが戻った個体は20%~30%でした。
金属イオンにより動きの回復がみられるものの、金属イオンの種類により回復の様子が異なっており、生徒たちは金属イオンの影響を非常に面白く感じていました。
この実験は動きの違いや時間による変化が見られ、生徒の興味関心を惹くことができ、金属イオンが代謝に与える影響についての導入実験になると感じました。今後、他の原生生物で実験を行うなど新たな教材開発に挑戦してみたいです。
ゾウリムシについて説明しています マイクロピペットを扱います ゾウリムシの動きがよく分かります